AI恐るるにたらず。それでも、AIは多くの仕事を代替する。東大合格をあきらめた「東ロボくん」は、MARCHレベルの大学に合格する実力がある。 AIが苦手とする読解力は、人間の子どもたちも驚くほど苦手。これからAIと仕事を取り合うことになるのに、大丈夫? 人間にしかできない能力とは。
教科書が読めない子どもたち:AIに仕事を取られる前にすべきこと
この記事を読んで、なかなか衝撃を受けて、手に取りました。
前半は、「東ロボくん」の研究成果と、その挫折。
現在のAI技術でできることと、できないこと。
「真の意味のAI」は現在の数学ではできない
「真の意味のAI(人間の知能と同等レベルの知能)」と、Siriやルンバに搭載されている「AI技術」が混同されている。そのため「AIが人類を滅ぼす」などという言説が出てくる。
「真の意味のAI」は、現在のディープラーニングなどの技術の延長線上では、できない。これは「論理、確率、統計」しか表現できず、人間の精神活動をすべて数式に置き換えることができない、数学自体の限界である、と。シンギュラリティは来ない。
ビッグデータ幻想やフレーム問題のくだりも面白いのですが、省略。
じつは、「東ロボくん」は東大に合格すると思って始まったプロジェクトではなかった。
「AIは東大には合格しないだろう。しかし、センター試験の穴埋めだけで入れる大学もある。AIで何がどこまでできるかを明らかにすることで、AIと共存するこれからの社会にどのように備えていくか、考える材料を提供しよう」
これが、プロジェクトの趣旨だった。
2016年に「東ロボくん」は東大合格を断念する。しかし、そうした「失敗」の情報こそ価値があると著者はいう。たとえば、英語の問題でディープラーニングは既存の手法より出来が悪かった。どんなに投資してもディープラーニングが上手くいかない場合とは何かを、企業が身銭を切って学ぶ前に教えてあげたのだ。ありがとう、「東ロボくん」!
とはいえ、偏差値57.1に成長した「東ロボくん」。
MARCHや関関同立を含む多数の大学の学部で、合格可能性80%の判定をもらい、ガッツポーズ。
しかし、と、研究者たちは思った。
それでは、AI以下の成績しか取れない子どもたちは何なのか?
「東ロボくん」は文章の「意味」を理解しない。では、人間の子どもたちは文章の「意味」を本当に理解しているのか?
全国2万5000人の基礎的読解力調査で、驚きの結果が明らかになった。
問題文は、上記のインタビュー記事の二ページ目、中ほどをご覧ください。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
空欄に当てはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
Alexandraの愛称は( )である。
①Alex ②Alexander ③男性 ④女性
「アレキサンドラ愛称問題」の正答率は、中学生で38%、高校生で65%。
難解な小説などではなく、教科書から取られた問題文の読解に、サイコロを振って答えるような確率でしか正解できない子どもたちが相当数いる。これはほとんど、教科書が「読めていない」のと同じ。
「問題が悪いのでは」「生徒が真面目に回答しなかったからでは」などの反論については、本書参照。
どうやら、文章中の「キーワード」にだけ目を通し、意味的にしっかり把握しないまま、適当に推測して答える子どもたちが結構いるらしい。まさに「読んでいるつもり」、「分かったつもり」。そして、少し複雑な文章になると、よく分からなくなってしまうそう。
そして、読解能力値と、進学できる高校の偏差値の相関は高い。
「キーワード読み」「意味を理解しない」「一を聞いて十を知る、ができない」
教科書くらいの文章が理解できないということは、将来仕事で新しいことを覚えたり、職種を変えたりするときに、かなりの困難が予想される、ということ。
ただでさえ、これからAI技術が発展して仕事が代替されていくのに。
AI技術の発展によって新しく生まれる仕事も当然ある。しかし、AIの限界と同じ、「キーワード読み」「意味を理解しない」「一を聞いて十を知る、ができない」人材が、そのような新しく生まれる職種に対応できるのか。
〇AIと同じやり方をしていては、AIには到底太刀打ちできない。
〇「アクティブ・ラーニング」「プログラミング教育」は、平易な文章すら正しく理解できない層には、絵に描いた餅。
〇ベーシックインカムは、仮に導入されるとしても、タイムラグがあるはず。
というような、著者の心配が後半に書かれています。
なお、読解力は、塾に通っているかどうか、スマートフォンの利用や学習時間の自己申告、読書の好き嫌いとは、関係がないそうです。ただ、家庭の経済状況とは負の相関がある。貧しい家庭の子どもほど読解力が低くなる傾向があると。
後半は、調査が追いついていないこともあってやや主観的な言及もありますが、とにかく、中学生へのRST(読解力検査)の普及や調査を継続してもらいたい、と切に思いました。
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