///『大仙厓展』

『大仙厓展』

こんなにたくさんの本物を、一度に見られるとは。

少し前になりますが、出光美術館の開館50周年記念、「大仙厓展」を見てきたので感想を書きます。

「ゆるカワ」絵として知られている仙厓さん、すごく好きなのに、本物はあまり見たことがなかったんです。今回、おなかいっぱい見ることができました。さすが「大」がつくだけあってどこもかしこも仙厓仙厓。

やっぱり本物はいいな! 筆のストロークがよく分かりますよ。じっと見ていると追体験ができるというか、一筆描きとか、「あっ、犬の髭の先、曲がったけど、まぁいいか」みたいな気分も味わえる。本当にてきとう…いや、自由で楽しそうな線です。

* * *

美術館の展覧会に行くたびに、どれが一番お気に入りか考えるんですが、今回は本当に選べなかった!

○布袋画賛(文化十四年)
このおっちゃん、味ありすぎるよね。カワイイ。これとは別に、四十代のころ描いた布袋さんは写実的でびっくり。ここから、あの「ゆるカワ」への変遷が始まった。

○絶筆碑画賛
思わず、笑った! こんな画を描いちゃうなんて。
仙厓さんの筆は当時から揮毫の依頼が引きもきらず、みんなが紙を置いていくので「うちはトイレか」とこぼしながらも、依頼に応えて適当に描いていたのだが、ついに82歳のとき絶筆宣言。庭には「絶筆の碑」まで立て、その画を描いて人に送ったそうだ。が、それでも依頼は止まず、しかたなく撤回して死ぬまで描き続けたとか。

○狗子仏性画賛
子犬のことが本当にかわいいという表情の子どもや、それを見る大人たちに、ほのぼの。

この部屋は、仙厓さんの有名な禅画が勢ぞろいで、感激した。
蕪、ほのぼの指月布袋図、一円相、「□△○」。お菓子の「ひよこ」を思い出す自画像など。
「狗子仏性(イヌにも仏性はあるか?)」「直指人心」など、『鉄鼠の檻』(京極夏彦)を思い出すなぁ。

○三聖画賛
釈迦と孔子と老師が鍋を囲んでいて、「それぞれ教えは表面的には異なっているように見えるけど、実は同じところから汲み出しているんだよ」という意味らしいけど、ただ鍋ができるのを待ってる好々爺三人しか見えないのがいい。
「じっくり待てばうまくなる」みたいなことも書いてあるし。

○「きゃふんきゃふん」犬図
これに限らず、さらさらと、実に楽しそうに描いているんだけど、伝える特徴はつかんでいて、時にはっとするほど上手いのがこの人の特徴。

別の画で、面白いことが賛に書いてあった。

「世の中の画というものは、美人のごとく、笑われることを憎む。
 仙厓の画は、ふざけた者のごとく、笑われることを愛す。」

これは「上手く描く」っていう枠から外に出てるってことだよなぁ。
そういう境地ってなかなかいい。

○トド画
これ一番かわいいぃぃ! ゴマちゃん。

○龍虎画賛
見たことないほどユルい龍虎図なんだけど、
「これ何?」
「龍だよ」
「人大笑い 自分も苦笑」
というような意味の画賛が、堂々と書いてある。

○三福神画賛 何気ない一枚だけど、年賀状にしたい。

あと、仙厓さんは石が好きで、珍奇な石のコレクターだったそうだ。
「亀石」というつるつるした赤っぽい石や、姫島に行ったとき拾ってきたという「神授(天然)硯」、つまり天然で硯っぽい形になった石などが展示されていた。どちらも本人が由来の巻物まで作っている。

別冊太陽の仙厓特集、すごく充実していた。

鶴乃子はマシュマロ。

今回、生涯について知って発見したのは、仙厓さんの「ユルかわ」絵は、本人のユルさ(イコール、他人をすぐ善悪で裁いたり、責めたりしない、辛抱強くて、寛容な人)に由来するところがずいぶんあって、それで、自分はその雰囲気に惹かれるんだな、ということでした。

写真で見るのもいいけど、やっぱり実物はいいです。

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