///小説的な要約とは
小説的な要約とは

小説的な要約とは

つ、ついに買ってしまいました。
定価1800円の本を、倍以上の値段で。orz

マハーバーラタ戦記―賢者は呪い、神の子は戦う
マーガレット シンプソン (著), 菜畑 めぶき (翻訳)
PHP研究所
※読みたかったら図書館で借りよう!

他の訳を読むうちに、「あれ? ここって『戦記』ではどうなってたっけ?」と思うことが多くなり、いちいち図書館で借りてくるのが面倒くさくなったのです。

最近出た訳だけでなく、山際素男訳全9巻なども一部分読んでみた結果、それでも、

最初に、まったく何も知らない人に、マハーバーラタをすすめるなら、やっぱり『戦記』だな~。

と、思いはじめています。その理由は、とにかく短く、そして「小説的である」ということ。
最初に下記の感想を書いたときは、「小説的である」ということが、セリフが口語体だからかな、と思っていました。

マハーバーラタはクリシュナ最強伝説という話 『マハーバーラタ』は「クリシュナ最強伝説」という話

しかし、それだけではないことが、他の訳も読み、そしてちょうど、

小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌 (著)
角川書店(角川グループパブリッシング)

『新宿鮫』の大沢在昌先生の本を読んでいて、分かったのですー!!

すごく単純化した図ですが、こういうことなのかなぁと。

小説的な要約とは

普通の要約は、エピソードや挿話の取捨選択を行いつつ、できるだけたくさんの情報を入れようとします。一つ一つのエピソードは短くなりますが、ひととおりの話を網羅します。

小説的な要約は、もっと大胆な取捨選択を行います。
バッサリ切り捨てる部分がある一方で、ある場面だけ詳しく描写したり、脚色したりします。

それは、小説的な要約が目指すのが、「読者に感情移入してもらうこと」だから。
そのためには、キャラクターに、命を吹き込まなければなりません。

あらためて『マハーバーラタ戦記』を読み返すと、「どうしてこんな少ないページ数の中で、カルナと育ての親の会話が二ページもあるんだよ!」と、ツッコミを入れるわけです。原典訳にもこんな会話はないはずなのに。でも、こういうシーンがあって、御前試合でアルジュナと身分の違いに凹まされて・・・と続いていくことで、読者がカルナとアルジュナというキャラクターに感情移入できるんだな、と。

大沢在昌先生は、受講者の作品を添削していて、「小説としての読ませどころ」は、しっかりと書き込まなければならない、と言っています。
ベタですが、主人公がクロロホルムを嗅がされて、車のトランクに押し込まれるようなシーン。これを、サクサクと数行の説明で終わらせれば、読者は「ふーん」と思うだけです。読者をドキドキさせ、「えっ、これからどうなるんだろう?」という不安を感じさせるようにしっかり書き込むのが、小説というもの。ダラダラ長く書けばいいわけではないけれど、そういうこと。

それでいうと、マハーバーラタの主筋には、いくつかのドラマチックなシーンがあり、そこは「しっかり読ませるべきところ」だと思うのです。

いちばん大きいのは、ユディシュティラがいかさま賭博で負けて王国を失い、妻のドラウパディーまで賭けてしまい、ドゥルヨーダナやカルナが彼女を引きずってきて、王宮の皆の前でその衣服をはぎ取って辱めようとするシーンですね。

他にも、前述のアルジュナとカルナの御前試合、ドラウパディーの婿選び式、ラージャスーヤ(世界皇帝)の戴冠式など、もしストーリー漫画を描くなら、ページを取ってそれぞれの登場人物の心情をしっかり描き込まないとなぁ、というシーンがあります。

そういうところを、『戦記』は、このページ数にしては驚くほどしっかり取り扱っている。そのぶん、他のエピソードや挿話はバッサリと削っているわけですが。
それは、「情報量<読者の感情移入度」(多くのエピソードを盛り込んだ情報量よりも、読者をキャラクターに感情移入させることを優先)という結果だったんだなぁ、と思ったのでした。この少ない文章量で、キャラクターを立てつつ、主筋の面白さも盛り込んで全体を構成したのは、マーガレット・シンプソンさんの力量。

本が好きな人なら、新しい『JAYA インド神話物語マハーバーラタ』もいいですよ! まず大事なこととして、本屋さんで手に入るし、上下巻二冊だから一気読みできます。(登場人物が多いので、最初はとにかく一気に読まないと、人名を忘れます)。それでも、文章量は結構あるので、ある程度活字好きの人向けかな。といっても原典訳にはとてもかないませんが。原典訳は、すべてのシーンがみっっっちり描写されている。
『マハーバーラタ入門』は、入門とはついているけど、何かの二冊目以降に読んだほうがいいと思います。全体を整理したり、知らなかった挿話を読んだり、他の文化圏の神話との比較を考えたりする本だな、と思いました。

買っちゃった・・

しかし、あらためて表紙を見ると……真ん中のおじさんはアルジュナなんだろうなぁ。だって、戦争のとき16歳の息子がいるくらいだから、本当はおじさんなんだよなぁw もちろんいいけどw