『天気の子』感想②です。
よろしければ、先に、感想①をご覧ください。目次もあります。
あと、これ以下、全部ネタバレですのでご注意くださいね。
二人を阻むものがリアルすぎて大人は泣いてしまう、つらい
「障害のある恋」、何かに「隔てられた」男女、というのは新海監督の過去作品だけでなく様々な映画で見るところだと思う。『君の名は。』では、災害という世界線と、三年という時間に隔てられていた。
『天気の子』でも、最後に二人は彼岸と此岸に隔てられる。でも、その前はずっと一緒に大事な時間を過ごしていた。それはほんのつかの間そうやって寄り添っているだけで、どう考えても長くは続かない。「神様、これ以上何も足さなくていいから、何も引かないで下さい」。もうすぐ隔てられる、離ればなれになる、という強い予感。そういう、未来の隔絶がある。
この作品で、帆高と陽菜という二人を阻むものは、この現実のしくみそのもの。社会的な「正しさ」。二人を結びつけたのは……こういうことを書くとあれだけど、でも映画がそう描いているから書くけど、この社会の「貧しさ」「行き場のない感じ」。ビッグマック。歌舞伎町のそういう店。
大人目線だと、晩ご飯が三日連続マックのコーンポタージュとか、見てるだけでつらい。たぶん多くの人が「金持たないで家出してきて自業自得だろ」って言うと思うんだけど(それもつらい)、でも、自分が、どーーしても、どーーーしても、そうならざるを得ない状況になったら、と、想像すると本当につらいの。
帆高はそれを淡々と受け入れてて、「自己責任」という言葉なんかもちろん呼吸をするように分かっていて、全然、自分のことをかわいそうとも思っていなくて、いや、他人をかわいそうと思うなんて思い上がりなんだけど、でも、見ていて切ないの。家出がいいこととは、全然思わないんだけど。
この作品、ものすごーく、タイアップが多いんですよ。
もともとリアルな東京の街を描いているということもあるけど、冒頭のバ○ラの広告車とか気持ち悪くてめまいがした(タイアップ自体は悪いとは思わないです。お金がなければいいもの作れないというのも本当だし。アニメの制作現場の方々に回っていればいいなと思います)。後半にいくにつれ、美しい空や、普通の街の描写が多くなってきて、ほっとするんだけど。
それで、ネカフェで食べてるカップ麺とか、いくらタイアップされていても、悪いんだけど、全然食べたいと思わないの。マックが生涯で一番うまい夕食。うん、あの状況では確かにそうだと思うけど、そういう状況自体がつらくて、マックにいいイメージが全然湧かない。何かもう、貧困とかデフレの描写にしか見えなくて。ヤフー知恵袋に代表されるネットの世界だって、底意地悪いやつしかいないし。
二人を取り巻く社会の厳しさが、大人になった目で見ると、とてもつらい。それは、『君の名は。』の三年の時間と世界線で隔てられているよりも、なぜかつらく感じる。
ラブホのシーン。
ほのぼのしていてよかったですね。
みんなとても楽しそうにしていて、いい笑顔で。
バスローブを脱ぐ陽菜ちゃん、ちょっとエロくて、でも、きれいで。
だけどね。
この東京で、誰も頼る人がいないというのに、所持金五万円? たった五万円。それで三人の子どもで逃げるって、一体どうするのよ(泣)。そこから一緒にいられる一晩のために二万八千円使って。私だったら、明日からどうなるのか怖くて、広いベッドも浴槽も楽しめない。絶対、もうすぐ警察につかまって離ればなれになるんだし。でも、三人ともはしゃいでいて、本当に幸せそうで。みんな強いというより、ほんとにこの子たちには「今」しかないんだな、という感じが伝わってくる。いいシーン。切なすぎる。
凪くん、今作最強のイケメン小学生で、でも、もっと無邪気に子ども時代を過ごさせてあげたい。お姉さんが歌舞伎町の店に入店しなくてよかった。でも……「姉ちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」の明るい声とか、こみ上げるものがある。「今日の晩めしは豪華だぜぇ!」と嬉しそうにしていて、からあげクン。働ける年齢になったら中卒でも働くって言いそうだけど、ずば抜けて賢そうだし、勉強したいこととかあるんじゃないかな?
大人目線、上から目線で、ほんとにごめん。
女装もいいんだけど、あれだけ大人びた子が、最後に涙を見せるシーンがぐっとくる。これ書いてるだけで泣けてきた。
大人は実は悪くない
つい子どもたちに感情移入してしまう映画ですが、大人たちは誰も悪くない。
キャッチは暴力振るってるし一番ダメだけど、彼でさえ奥さんと可愛い子どもがいて、青空を喜んでいるシーンがある。あんなやつだけど、生きるために一生懸命(?)あの仕事やってるんだなっていうオチ。
須賀は、ぎりぎりまで「大人」で、ラストもすぐに「大人」に戻っていてよかった。小栗旬の声、ダルくて好き。
警察署を逃げ出して、線路を全力疾走して(あれ、よく鉄道の人に止められなかったな)変な廃ビルの屋上に行こうとしている帆高って、大人から見たら完全に「狂ってる」としか言えない。
代々木の廃ビルで「いっしょに警察行くぞ」って須賀と帆高が争うシーン、よかった。もうね、両者の気持ちがよく分かって。(ここの作画、実際に自分が腕を掴まれたり、かみつかれたりしたように感じた。「体がある」ことを感じる作画) もちろん、そこは映画で、ファンタジーだから、最後の最後に須賀は警察官を殴っちゃうわけだけど。
いや、でも、警察官の人たちはまったく悪くないからね。
モヒカン、じゃなかったリーゼント高井刑事の、拳銃をぶっ放した帆高(このアホめ)に銃をかまえながら、「撃たせないでくれよ…」の声、すごく好きです。エモい。ハァハァ。日本の警察が十六歳の少年を撃ちたいわけないじゃん!! 取り押さえるときもの多少の手荒さも、銃を持ってる相手なら当然という感じがするけど。
東京は息苦しくない
今回も、東京の景色は美しかったですーーー!!
でも、前作とは一転、『天気の子』では、主人公たちは若くてキラキラしてるけど、東京は薄汚れてる(笑)。
それでも、現実よりも美しいシーンがたくさんありました。空も水も綺麗!
絵のほうが美しく描けるんだよね。絵は頭の中にある情景を描くものだから。
新宿、六本木ヒルズは定番ですね。
そして、あの印象的な、駅をバックにしたゆるい坂道は田端。「田端ナッシング」だった田端! 聖地巡礼者も増えるんでしょうか。私もちょっと写真を撮りに行ってみたい。いや、それよりも解体間近の代々木会館ですよね。今月中か……、行けるかな。
貧困あり、暴力あり、他人の冷たさあり、タイアップ広告ありまくりの東京、でしたが。
ひとつ嬉しかったのは、陽菜が「それで、東京に出てきて息苦しくなくなった?」と聞いて、帆高が「そういえば、もう、息苦しくない」と答えていたこと。
うん、東京は息苦しくないよ!(他の都市と比べたことないけど)
集団の力も強いけど、個人も強い。
言いたいことを言っていい。やりたいことをやればいい。
いったんまとめ
ということで。
ポスターの青と水色のようにキラキラした、クレイジーな少年少女たち、それを取り囲み、ときに圧迫する、薄汚れて、しかし、息をのむほど美しくもある東京の景色、という映画でした。
「大人の正しさ」をいったん離れて、駆け抜けていく少年少女に感情移入ができるかどうかで、満足度は大きく変わると思います。まあ、でも、エンタメ作品として感情のアップダウンの激しさ、空と東京の景色の美しさだけでも、一度は見る価値があると思いますが。
ということで、残りの感想に続きます。
この作品が「問題作」と思う部分三点!
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